アンパ○マン と ざんねんマン その3
ジャム翁が最上階で沈思黙考し、アンパ○マンと、カレーを「調理」して痩身となったカ○ーパンマンが帰途についたころ、食パ○マンはジャム翁の2階くだって位置する自室のデスクで、自身の「守役」から報告を受けているところであった。
メ「いいですか?
正直わが防諜部を動員して、管理官の色恋ザタまで面倒みるなんてゴメンですよ」
食パ○マンに皮肉をぶっとばした、このまぶしいほどの金色したセミ・ショートヘアにグリーンのスーツという格好の女性スタッフ、メロンパ○ナはこの組織の防諜部に所属する、まだ若いが極めて有能な諜報員である。
若干20代にして、工作部門担当副管理官・食パ○マンの日常身辺警護にあたるグループに属していることからも、彼女がいかに優秀であるかがわかるだろう。
むろん組織に所属してまだ日が浅く実戦経験も乏しいので、警護活動中は車内において後方支援にまわっている(本人は、ほかのオトコどもに実戦でもヒケはとらない、と主張してやまない)。
「色恋ザタ」というのは、赤い格好をした不審な女が数カ月前から食パ○マンをつけまわしていることが報告されたことを指す。
現場の工作員上がりである食パ○マンはすぐ尾行に気づいたが、この尾行者の正体はわからないにしろ、まだそう危険な存在ではないとは考えていた。
だがとりあえず、防諜部に調査を指示したのである。
そこで、おむ○びマン率いる防諜部はその女に気づかれぬよう、しかし迅速に、監視の網をかぶせた。
防諜部の撮影した顔写真をもとに組織のメイン・データベースは、その挙動不審な赤女がバ○キンマンの側近であるド○ン嬢であることを突き止めた。
その日から食パ○マン、そしてその「赤い金魚のフン」の周囲を、さまざまな変装をしたメロンパ○ナら防諜部スタッフがすっぽり囲み、完璧な監視体制をしくことになった。
ド○ンが菌類スパイと接触をするかもしれないからである。
防諜部は、国内における敵国スパイの活動を監視・摘発することを主務とする。
そのため警察との間でナワバリ争いに関するイザコザが絶えないが、こと防諜関係に特化すると、両者の優劣の差には霊験あらたかなものがあった。
組織の歴史を考えれば、それは当然である。
戦時中に日本軍内に創設された情報機関の後継組織が、このアンパ○マンらの組織である(便宜上、Bと呼ぶ)。
その中で敵国スパイの浸透防止を担当する防諜部は、その任務の特異性、また在来スタッフの特殊能力ゆえに、組織が再編された際も部局がほぼそのまま新組織へ移管された。
戦前から現在までずっと、リヒァルト・ゾルゲなどに代表される様々な「モグラ」を相手に「影の戦い」に明け暮れてきた彼らは、まさに組織の中でも異能のプロフェッショナル集団である。
警察との間に知識・経験の差があるのは理の当然であろう。
現在、日本国内における浸透工作員の監視・摘発において、B・防諜部の右に出るものはいない。
そんなプロを動員しての調査の結果、ド○ン嬢は単にストーカーのまねごとをしていただけときた。
メロンパ○ナは定時報告と兼ねて、この事実を報告しにきたのである。
彼女は腕組みをした。
メ「あんな目立つ真っ赤っかな色してスパイ行為なんて、おかしいと思いましたよ。
単なる追っかけじゃないですか!」
食パ○マンは思わず苦笑した。
食「実際追っかけてたじゃないか。
じゃ、明日から私は“集団下校”しなくていいわけだ」
メロンパ○ナは、はぁ、とタメ息をつくと、報告書をファイルに綴じて
「いーえ、あのアカ女がいつ“クロ”に変わるかわかったもんじゃないんですから。
もう少し私たちの“輪”の中で行動してもらいます。
いっときますけど、ボスの指示ですからね。
したがってください、ね」
Bは敗戦後に軍部時代の組織とは性格も仕組みも内部構造もすべて一新して現在にいたるのだが、その際イギリスの諜報機関SISを参考にしており、そのためさまざまなシステムやその他の要素がSISと似ている。
たとえばBの活動予算は、それという名目がついて下りてくるわけではなく、外務省や厚労省など他のさまざまな省の予算の中に「その他」などの名前で、紛れ込まされている。
いざ国が「予算をださんぞ」と脅しをかけても、効果がないわけだ。
だがそれらの省との間に、友好な関係を構築しておく必要がある。
そして、この食パ○マンとミス・防諜部との間に見られる親しげな様子もまた、SISに共通するものである。
Bのスタッフはみなお互い、信頼しあっている。
彼らのやりとりは一見、慣れ合いともとれなくもないが、お互い「どういうとき、どうふるまうか」をしっかり心得ている。
この信頼関係は、組織のモチベーションの1つといえる。
だがこの信頼がクセ者となる場合もある。
相手が敵国に寝返っていた場合、信頼をおきすぎてその人間がスパイであると疑うことができなくなる可能性があるからである。
とくに防諜部の人間の仕事は「疑うこと」であるから、彼らはたいへん難しい立場にいることになる。
だから防諜部は、他のセクションと同じく並大抵の精神力をもつ人間では到底やっていけない職務といえる。
食「わかった、わかった。
おむすびのボスによろしくいっといてくれ。
もういいかな、メル?」
防諜部の若きスタッフは、すこしむくれた顔つきでうなずいた。
体が他の女性スタッフにくらべ小柄なために、よく子供扱いされる。
だが小さい体に反して、部内における存在は大きく、やることも多い。
そうだ、ロシアに亡命した元イギリス工作員、N.K.SACKのこっちでの行動痕跡をチェックしなくちゃ。
彼女は急いで空中廊下でつながった別棟の奥にある防諜部へ引き返した。
ようやくメロンパ○ナをオフィスから追い出して、食パ○マンは壁の時計をみた。
もうすこししたら、アンパ○マンが帰ってきてデスクを見、
「すぐ出頭すべし」
というメモを目にして舌打ちをし、こちらへ来るはずである。
食パ○マンは若いころこの組織にリクルートされてすぐ、ソ連担当工作部に所属になった。
それは彼が同期の中でも飛びぬけて「できるやつ」であったことを示す。
ちょうどKGBが当時の国防相ドミートリ・ヤゾフその他と組んで、ゴルバチョフに対してクーデターを起こす数年前であった。
ソ連内にいるBのスパイから、「ヤツェネヴォ(KGB)が政治局に対し、何かやらかそうとしているらしい」という情報も数多く寄せられ、永田町へより確実な情報を上げるために、若き食パ○マンは情報源と会いにモスクワへ潜入した。
そこでの2年間にもおよぶ滞在期間中、彼はさまざまな作戦を駆使して熾烈な情報戦を繰り広げた。
Bの工作員2人、情報源1人が消された。
むろんKGBの被害も甚大なものとなった。
相手は防諜をつかさどるKGB第二管理総局の、1工作管理官だった。
彼は「相当の切れ者」であるらしいという噂以外、顔も暗号名もまったく不明という男で、亡命してきたスパイから引き出した「ウラディーミル」という名前のみがわかっていた。
食パ○マンたちはその謎のスパイの兄貴分を「ウラド」と呼び、戦いつづけた。
だが食パ○マンは一度だけその男の顔をチラリとみる機会を得、彼は脳裏にその顔を焼きつけた。
だが「ウラド」に関する情報はKGB内でも極秘中の極秘であり、ついにモスクワにいるうちは正体をつかむことはできなかった。
そうこうしているうちにクーデターは失敗し、KGBは解体され、ついにソ連は崩壊した。
食パ○マンは本国へ召還され、そこで彼を待っていたのは祝福のシャンパンと昇進であった。
そうして10数年たったある日、彼はオフィスでテレビのニュースをつけた瞬間、思わず凍りついた。
彼が人目みてから1日たりとも忘れたことがなかった顔が、相変わらず凍りついたような眼と凍りついたような笑みをうかべ、演説台の上に立っていた。
彼はその時、「ロシアで最も影響力がある人物」、そして「最も恐れられる人物」となっており、西側諸国は彼に「凍りの微笑」というあだ名をつけた。
ソ連デスクでキャリアを積み、現在の地位を築いたBの誇るベテランのスパイ、食パ○マンが、旧ソ連の元・第二管理総局・工作管理官「ウラド」こと、ロシア大統領ウラディーミル・ウラディミロヴィッチ・プー○ンの顔を見たのは、これが2度目であった。
つづく
※フィクションですよ!
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